福島県在住の外国出身の方に聞く「外国人の目を通して見た福島!」の第14回。
今回、インタビューに答えてくれたのは、大熊町で農業をしているフランス人のエミリーさん。さっそくお話をうかがっていきましょう!

名前:Emilie Bouquet(ブケ・エミリー)
出身:ヴァンヌ(フランス)

ブケ・エミリーといいます。フランスの北西部、ブルターニュ地方にあるヴァンヌという町からやってきました。福島の大熊町で、イラストを描きながら農園を営んでいます。

【日本に来たきっかけを教えてください。】
日本をはじめて訪れたのは、2008年でした。兄が読んでいた日本の古いマンガを借りたり、SNSで日本人の友だちができたりしたのをきっかけに、日本に行ってみたいなあと思うようになって。それまでは、ヨーロッパの国を旅行することが多かったから、全然違う文化を見てみたかった。東京、京都、北海道を訪れ、日本の風景や文化をすごく気に入りました。もっといろんな日本を見たくて、翌年も、その翌年も、日本を訪れました。そのうち、旅行に来るだけじゃなくて、住んでみたいな、と思うようになって。2011年の4月に引っ越してきました。

【2011年の4月というと、震災の翌月ですね?】
そうなんです。まさかそんなことが起こるなんて思ってもいなかったので、驚きました。フランスでも震災のことはたくさん報道されていて。周りのみんなには「延期したら?」って言われました。でも私、一度決めたらやる!という性格なので(笑)。予定通り、日本に引っ越してきました。

はじめは、東京に住んで、フランスにいたころから続けていたアクセサリー作りで生計を立てていました。作ったものをフランスに送ったりもしていたんですが、やっぱり遠いので、フランスのお客さんと距離を感じるようになってしまって。それで、フランス語講師の仕事をするようになりました。

その時教えていた生徒さんに、福島市出身の方がいたんです。震災のことがあってから、福島にはあんまりいいイメージを持っていなかった。でも、その生徒さんと仲良くなって、私、福島のこと何も知らないのに、なんで悪いイメージを持っているんだろうなって。自分の目で見てみなきゃと思って、2018年に会津旅行を計画しました。

【会津に行ってみて、どうでしたか?】
もうすごく、気に入ってしまって。風景が本当にきれいだった。南会津の民家のカラフルな屋根とか、はじめてみる景色に、心を奪われました。日本にきてから、いろんなところを訪ねては、次はどこに住もうって考えていたんです。会津に行って、ああ、ここが自分の探してた場所だと思いました。

それから、会津に住む方法を模索しはじめました。ふるさと情報センターっていうところで会津の移住コーディネーターを紹介してもらって、2021年、会津での体験移住が始まりました。

福島県のイラストマップを描いたときに「双葉だるま」のことを知って、いつか見てみたいと思ったんです。それで、移住してしばらくして、浜通りまで初めて足をのばしました。はじめは、少しさみしいところだなって思って、でも、どうしてか分からないんだけど、ここで農業をやってみたい、という気持ちがわいたんです。

【農業には以前から興味があったんですか?】
農業高校に進学したかったんですが、大変だからって周りに反対されて、断念したことがあったんです。大学でエコロジーをやろうとしたら、今度は定員不足で廃部になってしまって。でもいつかはやりたいなって、ずっと心の奥にしまっていました。浜通りにきて、あのときやりたかったことを、ここでやろうって思いました。

それから、事業計画書を書いたり、農林事務所に相談に行ったりして、農園をはじめるための準備をしました。すべてがスムーズにはいかなかったけれど、いろんなご縁がつながって、大熊町に農地を借りられることになりました。そうして2023年の3月、「あまの川農園」をスタートさせました。

【農園の生活はどうですか?】
去年一年は、ジブリの世界に住んでいるみたいでした。季節によって変わる農園の表情を見られて、楽しくてしょうがなかった。農業を始めてから、そのときとのときを大事に過ごすようになったなあと思います。今までせかせかと生きてきたけど、ここでは急がなくていいと思える。10年後の農園も楽しみだけれど、毎日、その日にしか見られない景色をめいっぱい楽しんでいます。

ここでは、自然を大切にした農業をしたいと思っていて、パーマカルチャーの考え方を大事にしています。農薬はつかわないし、草も刈らない。よくみんなに、エミリーは野菜だけじゃなくて、虫も、草も育ててるよねって言われます(笑)。でも草だって自然の一部。果樹を日ざしから守ってくれたり、土の保水をしてくれたり、いろんないいところもあるんです。少しだけ手を入れて、あとは自然に任せる。私にできることはそんなにないんです。

ここでの農業には、もちろん、壁もあります。例えば、販売する野菜は、放射能の検査をクリアする必要があって。検査に出した野菜は細かくカットされてしまうので、再利用することができません。同じ1kgでも、じゃがいも1㎏とラズベリー1㎏では全然量が違うでしょう?ラズベリーを1㎏用意するのは大変です。それに、同じベリー類でも、種類ごとに検査する必要があるんです。ブラックベリー、ラズベリー、カシス、カラント、というように、それぞれ検査を受けなければいけない。でも、制限があるからこそ、いろいろ考えるようにもなりました。例えば、花の種なら検査が必要ないんです。ヘチマもスポンジとして使えるなと思って植えてみました。

それから、スーパーにないものを作りたいなと思って、今年はじゃがいもを10種類植えてみました。フランスでは、マルシェに行くといろんな野菜が売っていて、選ぶのも、料理をするのもとっても楽しかったんです。そういう気持ちをみんなにも味わってほしいな。畑にタイニーショップを作って販売したいなと思って、今、コンテナをリフォームしているところなんです。

【日本に住んで大変だったことはありますか?】
やっぱり日本語ですね。移住してきたころは、英語が話せれば大丈夫なんじゃないかなと気楽に構えてましたけど、実際そんなことはなくて。買い物とか、手続きとか、郵便を出すとか、フランスではなにも考えずにできていたような簡単なことが全然うまくいかなくて、苦労しました。日本語の勉強のために、子ども用の絵本を買って読んだりもしました。「カチカチ山」、懐かしいなあ(笑)。今は、農園のことで、難しい書類を読んだり書いたりしなくちゃいけないので、以前とは違った意味で、でも引き続き苦労してます。

【記事を読んでいるみなさんに一言お願いします。】
福島県はすごくおもしろいところ。会津、中通り、浜通り、みんな違う。県外の人にとっては、まだまだネガティブなイメージがあるかもしれないけれど、みんな自分の目で福島を見てほしいなと思います。県内の人も、自分の地域から出ていろんな福島を見てほしい。ほかの地域や人とつながって、これからの福島県をどうやってもっとよくしてくか、みんなでアイディアを出し合ってほしいなと思います。大熊にもきてほしいな。あまの川農園もあるし、きれいな神社もある。ダムもあるし、おもしろい人も、あたたかい人もいっぱいいますよ。
--------------------------------------------------------------------------
エミリーさんの福島への思いをうかがい、県民としてとてもうれしく、私たちも負けずに挑戦しなくては!との思いでいっぱいになりました。これからの「あまの川農園」、どんな姿になっていくか、楽しみに応援しています!